目を見ればその人の考えていること何もかもが分かるような気がする。


「馬鹿じゃないの?」
「なんでこんな奴と話さなきゃいけないの?」
「退屈」


など、心の声が聞こえてくるような気がする。
”分かるような気がする”というのが、ポイントで、実際には99%が被害妄想だ。
でも、そうと分かっていても、自分の醜い心が作り出した相手の声は、止むことがない。
私はとうとう人の目を見るのをやめた。
道で歩いていても、対面で話していても、会議をしていても、決して目を合わせない。
どうしても失礼に当たるときには目から必死に集中を逸した。
そうすると、今まで悩んでいたコミュニケーションが、ウソのように楽になった。
さらにマスクなんかすると、もう向かうところ敵なし。



心の声はもう聞こえない。
私は無敵だ。
怖い上司とだって、馴染めない同期とだって、憧れの先輩とだって、堂々と話すことが出来る。



顔のほとんどがマスクで隠され、唯一見える目も虚ろ。
明らかに不審者然とする出で立ちは、まさしく裸の王様だった。
裸の王様は、今日も意気揚々と歩く。
自分が裸だと知らずに。