何もかもがしっかりと積み重なった雪の層。
その下に、小さな蕾が眠っている。


空は暗く雪ばかりだった草原に、今年は珍しく日が射した。
しかし、長年積もった雪はお日様の微かな暖かさではちっとも溶けて行かず、むしろ少し溶けた分だけ雪面は醜くなっていった。
やがてお日様は雲に覆われ、またいつも通りの日常が戻った。



蕾が人生で二度目にお日様の暖かさを感じたのはその二年後だった。
蕾は二年前の悲劇を思い出し、怖じ気付く。
しかしその暖かさは、お日様のように皆に薄く平等に与えられておらず、蕾だけをひたすら暖めていた。
それは暖かい人の手だった。人の手は自らの手を冷たく冷やし、それでも雪をとっぱらった。
蕾はその人の手が見たかった。その人の手が見たい一心で、今度は自ら雪を溶かすようになった。
さらに水の代わりに与えられた養命酒が、蕾の冷え性を改善し、雪を溶かす助けになった。



雪はまだ降るー。
しんしんと降る雪を見ていると時々、自分が雪に埋もっていた頃を懐かしく思い出す。あの時私を散々苦しめ、そして守ってくれていた雪の壁はもう無い。
しかし、どんなに雪が降っても、もう雪に埋もれることはないだろう。



一面の雪原の、そこだけ土が見えていて、小さな小さな花が、こじんまりと咲いていた。