鳥の神様

ある時、鳥の神様は人間達にこう言いました。

「みなにひとつずつ、卵を与えよう。
この卵は何者でもないお前達に、世界中からたくさんの承認をもたらすだろう。
そしてお前達はこの世界のスターとして、ネット上に輝き続けるだろう。」


「ただし。
卵はただでは孵らない。
お前達の通勤時間を、趣味の時間を、仕事の時間を、この卵に捧げるのです。」




神様は気まぐれでした。こんな試みをしたのも、ほんの出来心からでした。
しかし、人間達は神様の予想を遥かに超えて、この卵に身を費やし、承認を求め続けるようになりました。

人間たちが最も欲していたのは"ファボ”と”リツイート"でした。
人間たちは食事の時間も、恋人との時間も、寝る間も惜しんで、時には人の卵を盗んでまで、"ファボ”と”リツイート"を稼いだのでした。

やがて人間たちのステータスは、外見や能力ではなく、”フォロワースウ"になりました。
“フォロワースウ"の多いものは尊敬され、少ないものは虐げられるようになりました。


この時ようやく、人間たちは気づき始めました。

この卵は一生孵ることのない、悪魔の卵ではないかと。

しかしもう、戻ることは出来ません。
卵を持っていない者は、この世界に存在しないも同然です。
卵を捨てたら、また、”何者でもない者”に戻ってしまうのです。
それが怖くて、人間は卵を捨てることができません。
この、孵らない卵を。